風尾瞬の雑記帳

ほぼ、記録を置いてあるだけの場所

ちょっとだけ怖い話(?)

それは昨日の夜の出来事だった。
時計が23時を回っても帰宅しない住人が居るので、玄関を閉めることができなかった。
なぜなら、その住人は玄関の鍵を持っていないから。
管理人の老夫婦は疲れたと自室に戻り、俺一人でなかなか帰らぬ住人を待つこととした。


ひっそりとしたホテル。
幸いなことに幽霊騒ぎやそういった類の噂がない建物ではあるが、広い場所に深夜一人っきりでいる。
こういった環境が、無意味に恐怖心を掻き立てる。
テレビは興味を引く番組がやってない。
ゲームができるほどパソコンは性能が良くない。
特に暇を潰すアテもなく、一人ボーっと時を過ごす。


そんな時だった。
エレベーターの扉が一人でに開いた。
老夫婦のどちらかが降りて来たのだと思った俺は、そちらの方に目をやり声をかける。
「どうしたの?何かあ・・・」
そこには、声をかけるべき相手が誰も居なかった。
エレベータの中はからっぽ。
足の悪い老夫妻のどちらも、エレベーターから出て自分の視界の届かないところへ移動することは不可能。
(おかしいな。誰も操作してないのに、エレベーターが動くわけない)
そのうち、エレベーターの扉は自然に閉じる。
首をかしげながらもエレベーターから目を離すと、再びエレベーターの扉が開く音がした。
(なんだっていうんだろう。まさか、幽霊なんてことはないよな。)
恐る恐るエレベーターに近づくいてみた。特に嫌な感じもしない。
中に乗っても、それは一緒だった。
そのうち扉が閉じ、三度扉が開く。
今度はボタン操作で扉を閉じさせ、またボタンで扉を開ける。
別に異常はない。普通に動く。
別の階へ動かすボタンを押してみた。
直ぐに動き出すはずのエレベーターは、何故か動き出さず、もう一度扉が開く。まるで、誰かを招き入れるかのように。
ボタンで扉を閉じると、エレベーターは指定した階へ移動した。
もう一度、1階へ戻るボタンを押す。
今度は素直に1階へ移動する。
気味が悪くなった俺は、他の階のボタンを押し、エレベーターを降りた。


夜が明けた。
あのあと、午前2時に住人が帰ってきたのを確認すると、俺は即布団へ潜り込んで眠った。
他の住人や管理人夫妻に話を聞くと、しばらく前から扉が勝手に開いては閉じるを繰り返しているらしい。
電気的な故障かとも思ったが、スイッチはしっかりと機能している。
不審がりながらエレベーターに乗ると、謎は直ぐに解けた。


<扉が完全に閉まってない>


そう、扉が閉まったとき、微妙に隙間が開いていて、完全に扉が閉まりきっていなかったのだ。
だから、扉のセンサーは完全に閉まっていないということで、また開く。開いた扉はまた閉じるが、完全に閉まらない。
この繰り返しだったのだ。
別階へのボタンを押したときだけ、しっかりと扉が閉まり階を移動する。
このとき、しっかりと扉が閉まらなかった場合は、もう一度開閉するわけだったのだ。
では、原因はなんだったのか?
ドアのレールの上に幾つか異物(ボタンや紙くず)があったので取り除いてみた。が、状況に変化はない。
ということは、多分機械の故障なんだろう。
・・・まったく、ドキっとさせられた。人騒がせなエレベーターだ。